MPレーダの観測精度向上と短時間予測に関する研究

鹿児島大学地域防災教育研究センターは降水粒子に関するレーダ散乱シミュレーションや国土交通省のXバンドのマルチパラメータレーダを利用した高分解能・高精度の雨量推定手法の開発研究をおこなっている。一方,日本気象協会は,民間企業としては初めてとなるMPレーダを導入して降雨量推定の研究を開始するとともに,オープンソースのメソ数値予測モデルをベースにして独自の改良を加えた数値予測システムSYNFOSの運用に実績をあげている。本研究は,これらの両機関の利点を活かし,豪雨災害や強風・突風災害の軽減に向けた研究をおこなう。研究期間は2013年~2014年度である。

目的

鹿児島大学地域防災教育研究センター(以降,鹿児島大学)は降水粒子に関するレーダ散乱シミュレーションや国土交通省のXバンドのマルチパラメータレーダ(以降,MPレーダ)を利用した高分解能・高精度の雨量推定手法の開発研究に実績がある。一方,日本気象協会は,民間企業としては初めてとなるMPレーダを導入して降雨量推定の研究を開始するとともに,オープンソースのメソ数値予測モデルをベースにして独自の改良を加えた数値予測システムSYNFOSの運用に実績をあげている。本共同究は,両機関におけるこれらの研究実績をもとに,豪雨災害や強風・突風災害の軽減に資するために,MPレーダから得られる偏波レーダ情報とドップラー速度情報を用いた高時空間分解能の雨と風の監視予測手法を開発することを目的とする。

研究内容

局地的な豪雨の監視予測手法を開発するために,2次元ビデオディスドロメータ(以降,2DVD)の観測データを解析して雨滴粒径分布,形状,落下姿勢などの降水粒子の微物理特性を明らかにするとともに,その情報を用いた散乱シミュレーションから最適な降水量推定式を導出し,地上の雨量計により精度を検証する。また,強風の監視予測手法を高度化するために国土交通省のMPレーダネットワーク観測データから風速を推定し,強風のナウキャスト手法の実用化試験をおこなう。

 

(1)MPレーダのデータ収集

 鹿児島大学は,科学技術戦略推進費研究「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」から提供される国土交通省MPレーダデータのうち九州地方及び関東地方のデータを収集し両機関が利用できるようにサーバーを用意し蓄積する。日本気象協会は自社のMPレーダを関東地方運用しデータを収集するとともに2DVDデータを収集する。

 

(2)MPレーダ観測による強風監視と強風ナウキャスト

 鹿児島大学は防災科学技術研究所との共同研究のもとMPレーダネットワークの観測によって得られるデータから上空の風を推定しサーバーに蓄積する。日本気象協会は用意された観測事例について強風のナウキャスト試験を行い結果の検証を行う.

 

(3)MPレーダの観測精度向上

 鹿児島大学は日本気象協会が提供する2DVDの観測データを用いて降水パラメータの統計的な特性を明らかにするとともにその統計結果から降水粒子の散乱シミュレーションをおこなう。日本気象協会は鹿児島大学が様々な条件のもとでおこなった散乱シミュレーションの結果をもとに降雨量推定式を導出する。両機関はこれらの結果をもとにレーダデータ処理システムの高度化について議論しまとめる。

研究成果

(1)MPレーダのデータ収集

 2012年九州北部豪雨のXRAIN観測データ、気象庁Cバンドレーダデータ、国交省地上雨量データを収集した。XRAINの信号消散領域をCバンドレーダで補てんするとともに、時空間内挿により1分毎、500mのXRAIN-JMAレーダ合成雨量を作成し、地上雨量計による検証をおこなった。結果を学会誌へ投稿準備中。


(2)MPレーダ観測による強風監視と強風ナウキャスト

 国交省垂水レーダのデータを収集し、ドップラー速度の3次元分布を求めるアルゴリズム及びエコーの移動速度を求める手法を作成した。強風域の検出については未だ。


(3)MPレーダの観測精度向上

 国交省がXRAIN降雨量検証のために収集した2DVD(2次元ビデオディスドロメータ)を解析して4つの降雨タイプ(台風、温帯大気圧、停滞前線、不安定)毎の雨滴粒径分布の特徴を明らかにした。大きな直径の雨滴が観測される場合、雨滴粒径分布は平均的なガンマ分布から大きくずれる場合があり、これがR(KDP)の誤差原因の一つになっていることがわかった。釜慶国立大学の博士課程学生Sung-Aさんとの共同研究。