火山噴火

研究の背景

111の活火山を抱え、火山近くに都市が形成されている我が国では、火山噴火により放出される噴出物は様々な形の被害をもたらす。例えば噴火直後の噴石の飛散は住民、建物、農作物などへの直接的な被害をもたらす。噴火後、大気中に漂う火山灰は航空機の操縦席窓ガラスへの付着やエンジンの停止を引き起こす。市街地への降灰は鉄道などの陸上交通を麻痺させ日常生活や経済活動に影響を及ぼす。さらに、呼吸器疾患などの人体への被害をもたらす。将来、大噴火が懸念されている富士山の場合、大量に噴出される火山灰は首都圏に甚大な被害をもたらすことが懸念される。このような火山灰による被害を防ぐためには、噴火現象を検出することに加えて、放出される火山灰を監視しその分布を予測する技術を開発し、事前・事後の効果的な火山灰対策のための火山灰ハザードマップ作成手法を確立する必要がある。

目標

気象レーダや衛星などのリモートセンシングを用いた噴煙の監視・予測技術を開発し、その技術から得られる火山灰の定量的な情報を活用したリアルタイムザードマップの作成手法を開発し、火山灰被害の軽減に役立てることを目指す。

技術的隘路と研究課題

噴火の検知・観測手段として目視・監視カメラや気象衛星などによる観測があるが、これらの観測手段は受動的な観測であり,噴煙の内部構造や噴煙の定量的な評価には向かない。また夜間や降雨時の観測には制約がある。一方、気象レーダは能動的なセンサであり前述した問題点を解決できると期待されるが、降雨と火山灰の区別や定量的な噴煙量推定についての実証ができていない。


現在おこなわれている降灰予測は噴煙高度と噴火継続時間の観測値を初期値とした噴煙移流・拡散数値モデルによるものであるが、観測値そのものに不確定な部分があり予測精度を悪くする要因となっている。また、移流・拡散モデルが前提としている逆円錐形の単純な噴煙柱モデルの高度化は量的な降灰予測のために不可欠である。


降灰被害のハザードマップはすでに各自治体で作成されているが、気象条件は時々刻々変化し、噴火の規模や形態も変化する。また,降灰被害の形態は多種・多様である。変化する気象条件や定量的な噴煙観測情報を組み込んだ,利用分野ごとに利用できるリアルタイムハザードマップの作成手法を確立する必要がある。

memo

○火山砕屑物(火砕物)

文部省編 『学術用語集 地学編』(日本学術振興会、1984年、63頁。ISBN 4-8181-8401-2)によれば,火山砕屑物(かざんさいせつぶつ、英: pyroclastic material)とは、火山から噴出された固形物のうち、溶岩以外のものの総称であり,火砕物(かさいぶつ)ともいう。火山砕屑物は直径が2mm以下の火山灰(volcanic ash)、直径が2mmから64mmの火山礫(lapilli)、直径が64mm以上の火山岩塊(volcanic block)に分類される。気象レーダの観測対象は火山砕屑物である。


○火山灰粒子の散乱計算

1)これまで利用してきた、降雨粒子を対象としたプログラムは軸比が0.4程度で計算不安定となる。雨滴よりも偏平な形をした火山灰粒子の散乱特性を調べるためには氷粒子用に改良されたバージョンを利用する必要がある。

2)散乱計算には火山灰粒子の粒径分布、形状、姿勢などについての情報が必要である。このために2DVDやパーシベルによる地上観測データの解析を進めるとともに、防災科研の大型降雨実験施設において、粒径毎にサンプルした火山灰粒子の落下試験をおこない、降灰粒子の落下速度、形状、姿勢などを測定する。


○定量的降灰量推定式(工学的アプローチ)

1)レーダ反射強度の時間積算値と地上の降灰量測定値から最小2乗法により回帰直線を求める。この方法の問題点は、十分な時間分解能を持った地上降灰量のデータの収集が困難な点である。12時間間隔で測定が可能な国交省自動降灰量計は比較的大規模な噴火であれば、降灰量推定式を求めるのに利用できる。

2)測定箇所は限られるが、より時間分解能のある降灰量データとしては、前述した2DVDやパーシベルの実測値が利用できるかも知れない。但し,これらの計測器は降水粒子を対象として開発されたため、データ処理用のソフトウェアを降灰粒子用に修正する必要があるかも知れない。


○定量的降灰量推定式(理学的アプローチ)

1)理学的アプローチは、降灰粒子の散乱特性からレーダパラメータと降灰強度の関係式を理論的に求める方法である。降灰粒子の粒径分布,形状,落下姿勢,落下速度がわかれば降灰強度と反射因子,反射因子差などの偏波レーダパラメータが計算できる。降雨強度推定の場合には偏波間位相差が重要なパラメータであるが、降灰強度推定式の場合には当てはまらない。偏波間位相差よりも反射因子差が鍵となるかも知れない。


○降水粒子と降灰粒子の判別

1)降雨時における噴火の検出および噴煙柱高度の推定は現時点では困難である。噴煙柱の高度情報は移流拡散モデルによる降灰予測に不可欠な情報である。気象レーダはこの情報を提供できる有力な観測機器であるが、降雨時には噴火の検出自体が難しく、噴煙柱の高度の測定は更に困難であると考えられる。鍵となる技術は、偏波パラメータを利用した粒子判別技術であろう。前述の散乱計算結果に加えて、観測された降灰粒子の偏波レーダパラメータの統計解析から降灰粒子の特徴を抽出する必要がある。

2)降雨時の噴火事例のレーダデータの収集