噴煙観測研究のレビュー

現業気象レーダによる観測

澤田(2003)はスミソニアン協会の火山噴火活動報告と著者自身の調査から,2003年までの気象レーダによる噴煙の観測例を報告している。それによれば、噴煙エコーの世界で最初の観測例は1970年5月5日のアイスランドのHelka火山であると考えられる。この観測事例では、高度が5300フィートの噴煙が報告されている。観測事例が最も多い我が国では、1974年7月14日の国後島北東部の爺々岳の噴火が最初のレーダ観測例である。この事例では風下側に筋状に伸びる噴煙エコーがPPI画面に表示され、その時間変化が記録された。但し、当時のレーダエコーのスケッチや記録には積雲あるいは対流性エコーとの記述があり、当時の釧路気象台の職員が噴煙エコーと認識していたかどうかは定かではない。

鹿児島大学・熊本大学噴煙研究グループによる研究

鹿児島大学で噴煙研究が本格的に開始されたのは2002年である(木下ほか,2008)。木下を中心とする噴煙研究グループは、2002年に「南西諸島における火山噴煙の観測解析と配信」プロジェクトを立ち上げ、諏訪之瀬島・薩摩硫黄島の噴煙映像ネットワークカメラシステムを構築した。同時に桜島の多点観測体制が強化された。2003年には「西太平洋域における火山噴煙自動観測体制の展開」プロジェクトにより近赤外映像観測が開始される。これらの研究は,デジタルカメラ,ビデオカメラのインターバル撮影,近赤外ネットワークカメラなどによる噴煙の映像解析を特徴としている。収集された観測記録はアーカイブされwebサイト「火山と噴煙の写真やビデオ映像のページ」で閲覧できる。観測は限られるが、現在も桜島を対象にカメラによる観測が継続されており,2013年8月18日の桜島昭和火口の爆発的噴火の映像が紹介されている。

気象レーダを利用した新たな展開

真木(鹿児島大)らは,2013年に気象レーダを利用した噴煙柱や火山灰雲の研究を開始した。研究内容を大別すると、1)気象レーダデータの三次元解析ツールの開発、2)現業MPレーダ、研究用レーダ、船舶レーダによる噴煙柱の観測研究、3)定量的降灰量推定手法および予測手法に関する研究が挙げられる。以下,それぞれの概要について紹介する。

 

1)気象レーダデータの三次元解析ツール(Analytical Tools for Three-Dimensional Weather Radar Data of Eruption Clouds: ANT3D)

 ・三次元CAPPIデータの作成

 ・三次元表示

 ・噴煙柱の統計解析

 

2)気象レーダによる噴煙柱の観測研究

 ・Xバンド船舶レーダによる火山礫の検出と噴火直後の噴煙柱の形成過程の観測

 ・KaバンドドップラーレーダおよびKuバンドドップラーレーダによる噴煙柱の内部構造の研究

 ・現業XバンドMPレーダとCバンドMPレーダによる火山雲の三次元分布

 

3)定量的降灰量推定・予報手法

 ・2DVDおよびパーシベルによる地上降灰粒子の物理パラメータの測定

 ・工学的手法および理学的手法による定量的降灰量推定式の導出

 ・降灰ナウキャスト手法の開発

 ・降灰粒子・降水粒子の判別

 ・デジタルサイネージを活用した降灰情報の配信実験

 

研究費の支援を受けたプロジェクト

○科研費など

「リモートセンシングによる火山灰放出量の即時把握技術開発」(2017年~,京大防災研委託)

「降水時の爆発的火山噴火に関するレーダ気象学的研究(2016年~2019年,科研費補助金)

「火山灰のレーダ散乱特性に関する研究」(2012~2016年,科研費補助金)

「南九州地方における地域防災支援データベースの構築」(2013~2015年,文科省委託)

「火山噴出物の放出に伴う災害の軽減に関する総合的研究」(2014~2018年,JST・JICA)

 

○共同研究

「船舶レーダによる機動的火山噴火監視技術の確立と火山防災への利用」(2018年~2019年,京大防災研)

「気象レーダによる噴煙の実態解明と火山防災」(2013~2014年度,京大防災研)

「気象レーダによる極端現象の監視と予測に関する研究」(2013年~2015年度,防災科研)

「気象レーダーを活用した火山噴煙に関する研究」(2014~2017年,気象研究所)