第1章 電磁波に関する基礎知識 (参考文献の最後まで 17ページ)
1.1 はじめに
本章では電波の伝搬・散乱の基礎から始まり、気象レーダ方程式に到る色々な関係式とそれから得られた幾つかの結果について、主として偏波に着目して述べる。電波の基礎を正確に表現するためにはマクスウェル方程式から出発しなければならないが、それには長大なページ数を要し本書の趣旨からは不適切であろう。したがって、ここでは電磁気学についての基礎知識をある程度仮定して話を進める。以下の記述の不備については数ある電磁気学、或いは電波工学の教科書を参考にして頂きたい(少々古いが例えば、Stratton 1941; Slater and Frank 1947; Purcell 1985; Collin 1985 など)。
1.2節では、電磁気学・電波工学の中で本書のテーマに関連するであろう必要最小限の基礎項目に触れた後、降雨中の伝搬或いは降雨からのレーダ反射を知るための基本量である、雨滴の散乱振幅とその求め方の概要を述べる。球状雨滴、変形雨滴の散乱振幅双方について触れている。変形雨滴の散乱特性は、本書のテーマである偏波レーダによる雨の観測に直接関係している。1.3節では、この様な雨滴群から成る空間中を、直交した二偏波が伝搬する際の偏波間減衰差、位相差について述べる。後の章で示されるように、レーダから散乱体積までレーダ波パルスが伝搬する間の、偏波間減衰差・位相差は雨量の精密測定で重要な量となる。ついで気象レーダで重要な雨滴からの電磁波の後方散乱の扱い方を、雨滴が球状であるとの仮定の下で、偏波効果を考えない、従来からの電力にのみ着目したレーダ方程式について述べる。1.4節では、本書のテーマである非球形雨滴と偏波を考慮したレーダ方程式の扱いについて述べる。
1.3.2項以降の記述についいては、主として岡本ほか(1999)、Doviak and Zrnić(1993)、Bringi and Chandrasekar(2001)を参考にした。
1.2 単一粒子による電磁波の散乱
1.2.1 電磁波の表現のあらまし
本1.2.1項では電波の性質の概要について述べる。電波が空間を伝わる場合、その速さや強さは媒質の影響を受けるが、真空中でも伝わることが出来るので、電波を伝えるのは空間そのものの性質であると考えられる。光と電波は波長が違うだけで同じものである。
図1.1
図1.1の原点に長さdlの電流の素片があって、の様に電流の方向が上下に速く変化していると、それを取り囲むように電界と磁界の輪が生じ遠方に進んでゆく。これが電波である。ここでIは電流の大きさ、は周波数、tは時間である。周波数(Hz)は1秒間に電界・磁界の方向が変化する割合で、電波の波長λ(m)との関係がある。ここでvは媒質中での電波の速さ(m/s)で、真空中では光の速さc = 2.99792458×108 m/sと同じになるが、通常の媒質ではこれより遅くなる。
1.2.2 電磁波の電力とアンテナからの放射
1.2.3 散乱体の散乱振幅
1.3 降水中の電磁波の伝搬と散乱
1.3.1 伝搬の基本式と偏波間減衰差と位相差
1.3.2 後方への電磁波の散乱
1.4 偏波レーダ方程式
1.4.1 観測量の基本式
1.4.2 伝搬効果を無視出来る場合の観測量
1.4.3 伝搬効果を含めた観測量 (等傾斜角モデル)
謝辞
参考文献
付録 1A 降雨空間の伝送マトリクスT (4ページ)
付録 B 散乱マトリクスの計算 (5ページ)